失礼ですが、この契約書の内容について、御社は弁護士さんに見てもらったんでしょうか?」「ええ、一応は」「その弁護士さん、アメリカの労働法のご専門ですか?」「さあ……、あの人、どうなんだろう。
でも、向こうの弁護士さんは問題ないといってましたよ」「あのお、向こう″の弁護士さんは雇い主の利益を図ることが仕事であって、けっして御社の味方ではありませんよ」そんなやりとりをしたあと、私は個々の問題点をB社の味方として指摘し、契約内容の改訂を提案しました。
「まず雇用期間ですが、手腕のほどがわからない人をはじめて雇う場合はリスクがありますから、2年にされることをおすすめします。
アメリカでは2年が普通ですし、労働法にも抵触しません。
そうしたからといって、文句は出ないはずです」「へ〜、そうですか。
3年なんて、日本の感覚からすれば短いくらいだと思ってました」「月々の基本給もかなり高めだと思いますが、これは給与データベースと比較してからでないときちんとお答えできません。
それと、ストックオプションやボーナスなどについてですが、これ、御社のほうでは必要とお考えなんですか?」「いえ。
アメリカではそれが普通だと聞いたから、そのままにしたんですが……。
何か問題があるんですか?」「いえ、相手の方はたいへんしあわせだし、法的には何の問題もありません。
こういうオプションをおつけになるのが御社の雇用ポリシーであるなら、それはご自由です。
ただ、私が心配しているのは、これらが業績や利益とリンクしない確定的な金額ですので、人件費の増大につながって御社の経営を圧迫しないか、ということです」というように、問題山積の内容でした。
提示された契約書にはすでにB社社長のサインがしてあります。
聞けば、引き続いて他のアメリカ人役員との契約書(すべて同様の内容)にもサインする予定とのこと。
私はあわてていったんそれを中止してもらい、必要な資料をもらい受けて、社内外の専門家にストックオプションやボーナスの概算額を算出してもらいました。
すると、バイスプレジデントのクラスで、基本給はデータベースが示すレンジの上限値、ボーナスは1年間単位で3000万〜4000万円、ストックオプションに至っては現在価値に直して億を超える数字になったのです。
この報告を受けて、B社がすべての雇用契約書の大幅な見直しを行ったのはいうまでもありません。
そのおり、B社の担当者からお礼をいわれましたが、そのとき彼のいった言葉がいかにも。
日本的でした。
「いや、Iさんねえ、彼(バイスプレジデント)はとてもいい人なので、契約書がこういう内容だったとは思わなかったんですよ」「ええ、私もそう思います。
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